第11話
〈 第11話 〉
誰もが理解できるレシピを完成させる
- 第1章 事前準備、意識の統一 -
古川:いよいよ「高断熱高気密の結露させない基本レシピ」の最後、レシピづくりです。建物は確実な性能でつくること、健全に維持できるようにつくることが基本で、誰もが同じ品質でつくれることが再現性ということになります、そのためのレシピですからね。
ひだまり:前回は図面について教えてもらいましたが、古川さんから見せてもらう図面は建築図面に比べて文字や写真も多く入っていて、詳細ですよね。やはり誰にでも理解してもらうためにはこのように詳細な施工マニュアルが必要になってくるのでしょうか?

古川:そうですね。施工マニュアルは現場に携わる方々が共有し合うことによって、より精度高く品質を確保することを目的としています。それには再現性が高く、誰もが理解できるような内容になっていなければなりませんが、それには「知識・意識・技術の共有と確認」の3点が大切だと考えています。
図面から何が必要か?どの順番で施工するか?気を付けるポイントは?などは、見る方の知識や経験値によって、図面の捉え方に誤差が生まれイメージも変わります。その結果、同じ会社で作った建物でさえ現場ごとに品質にバラつきが出たり性能が担保されていなかったりする結果になります。そこで弊社が書いている施工マニュアルには、図面と一緒に施工順序や注意事項、間違えそうなポイントを図面の他に文章や写真でも記載しています。図面上で良い建物を計画しても、実際の建物で設計者や施主の意図が反映されていないと、それは机上の空論です。実際の建築現場では天候や災害の影響でやむを得ず計画通りにいかない場面にも遭遇しますので、建築図面通りの10点満点の家をつくるのが難しい場合もあります。そんな時に、その建物の建築関係者全員が共通した知識や意識を持ち、技術の共有と確認を行えていれば、天候などの不可抗力以外の施工不備を最小限とし、満点に近い家を完成させることができます。
ひだまり:そういうことだったのですね。では、施工マニュアルを作る第一歩として知っておくべきこと、気を付けるべきことを教えてください!
古川:これまで家づくりの工程を料理のレシピづくりに例えてきましたよね。家づくりは工程や施工者が多岐にわたるので、1人で作る家庭での料理方法だとあまり想像できないかもしれませんが、大型飲食店の厨房と考えると似たものがあります。そこには経験年数の異なる料理人の方々がいて、役割分担してひとつの料理を作っていたりします。このように複数の人で1つの物を作るとき、完成形に一番差が出る要因が意識の違いです。それぞれの考え方で役割をこなし、いざ1つに合わせる時にうまくいかない現象が起こります。それを起こさないためには、作る目的・注意事項・事前確認事項など、共通認識を持つことが大切です。
古川:まず作る家の確認です。設計時に施主と計画された外観や間取りの住宅の構造性能・意匠性・温熱性能の完成形を認知します。ここからこの家の施工の順序や注意点を施工マニュアルとして作成し施工に携わる皆さんと共有します。料理で言うところ「この料理を作りたい」といったところですね。

古川:次に工事の手順と注意点です。先ほどの住宅の完成形から、大まかにどのような流れ(工程)で施工を進め、どのような注意点があるかを施工に携わる皆さんで共有することが大切です。施工の順序を知ることで、自分の施工の出番を把握、天候が悪い時は施工してはいけないなど注意点やルールの共通認識を持つことで、施工品質を保ちます。高気密高断熱住宅は水に弱いので、雨養生の方法や万が一、濡れた場合はどのような対処方法をするかを施工に携わる皆さんで共有し〈第4話〉で学んだ初期結露を施工者全員で防ぎます。
部位別の施工の手順や注意点は、これらとは別の詳細図面となります。料理に置き換えても、料理を始める前の前提、調理手順や衛生面の注意事項などがあると思います。建築でも、施工に臨むための心構えがこの工事の手順と注意事項になりますね。

ひだまり:意識の統一が品質にも繋がってきて、毎回意識しなおすことも大切なのですね。
古川:使用部材の選定は〈第7話〉の「部材を知る」の復習です。選定時に考えることは大きく分けて下の4つです。これは、料理のレシピでも同じことが言えますね。
1 部材単体の効果や部材同士の組み合わせで正しく効果が出るか?
2 設計時の計算値にマッチするか?+部材に耐久性があるか?
3 施工は難しくないか?
4 価格は高価すぎないか?(材工や対応年数なども含めて考える)

ひだまり:当たり前のことのようですが、これまで部材の大切さも学んできたので、しっかり確認したい部分です。似て非なるものを使うと、計画した性能が出ない可能性もあるので、決められた部材を使って正しく納めたいですね!
- 第2章 性能が出る確実な納め方を、正確に伝える -
古川:意識の統一や事前確認が済んだら、次に作り方にあたる施工方法を図示、文章化していきます。ここからは「知識・意識・技術の共有と確認」すべてに関係しますね。
さて、施工マニュアル内にあるような「断面図」はその構成を表すことに向いていますが、工程や順序を表すことには少し不向きです。〈第11話〉のテーマにもあるように「誰もが理解できる」ようにするためには、何をどうやって、何に注意して施工すべきかというのを施工マニュアルで段階的に記すことが重要です。
ひだまり:具体的に施工マニュアルはどのように構成されているのですか?
古川:5W1Hを軸に構成すると、基盤がしっかりした施工マニュアルが完成します。なぜそのように施工する必要があるのか、その理由も書くことで単純作業にならず目的意識を持って施工をしてもらうことができます。画像や図をつけることによって、言葉で伝えきれない部分も補えるので、さらにイメージが湧きやすく、ミスを減らすことに役立ちます。
それでは、この先は家の建つ工程にそって施工マニュアル制作時の重要ポイントを見ていきましょう!
古川:まずは、基礎の施工マニュアルです。こちらの図面は捨てコンが終わった後のマニュアルです。今回は基礎断熱の際の検討ポイントをお伝えしたいと思います。ポイントは、目立ち上がり基礎部分の断熱は内側か外側か?スラブコンクリートと立ち上がりのコンクリート打ち込みは1回か、スラブと立ち上がりで分けて2回で打ち込むか?です。この2点の違いで施工の仕方が大きく変わります。今回は基礎外断熱でスラブと立ち上がりで分けてコンクリートを打ちこむ形のマニュアルなので、基礎外断熱はコンクリートと一体打ち込み。また、スラブと立ち上がりの打ち継ぎ部には止水板が必要になることなどが記載されています。そして、よく断熱欠損になるポイントとして玄関ポーチのスラブコンクリートと基礎断熱の取り合い部があるので、断熱欠損にならないための注意書きや画像もつけています。


ひだまり:基礎にも様々な納め方があるのですね。断熱欠損となる部分を作らないよう、細心の注意が必要ですね。
古川:次に土台敷き段階での施工マニュアルです。1のマニュアルは、「基礎断熱の住宅での土台部分の気密を確保するため外基礎に気密パッキンを、内基礎にキソパッキンを入れることで床下内部の水蒸気や温度が部分的に停滞しないようにする。」ということを説明しています。土台下のパッキン材の入れ方についてはメーカーの説明書必読です。これも当たり前のことのようですが、メーカーの注意事項をよく読んで施工要領通り行わないとせっかく部材を使用していても本来持つ性能が出ずに、やり直し工事となる恐れがあるからです。
建て方は建物の気密や防湿に一番かかわりの深い部分なので、特に確実な性能が必要です。
順序を間違えると著しく性能にかかわるので、工程をより詳細に、前後の間違いなくできるように表現しておきましょう。また、建て方は後半になると高所での作業になってくるので、安全第一である旨も書いておきます。

ひだまり:スピーディーに屋根をかけることだけを考えるのではなく、各部を確実に納めていくことで、家全体で性能が出てくるのですね!
古川:ひだまりさん、その通り!家づくりはスピード勝負ではありませんので、ひとつひとつ確実に!が大事ですね。
古川:次に2階、屋根周りの施工マニュアルです。従来の建物と高気密高断熱住宅の工程の違いが一番現れる部分が住宅の上部になります。従来の建物では「建て方時に雨で建物が濡れないこと!」を優先してきました。その結果、断熱が連続しにくかったり防湿気密シートが切れていたりと、気流止めがしにくい建物になっていました。高気密高断熱住宅でも雨で濡れない対策は必須で、それに加えて断熱層や防湿層の連結ができるように施工する順番を従来の住宅と変更する必要があります。
1では①桁上の付加断熱をいつ行うかという施工順序の記載②壁の付加断熱と連結できるよう、どのくらい桁面から外部へ出す施工にするかの記載をしています。後工事にも支障がないよう、より簡単で精度も出すための施工順序も明記していきましょう。
また、桁下の充填断熱後の可変透湿気密シートの施工がスムーズに精度も良く張れるようにしたいのですが、ここも順序が前後すると思った性能が出ない納まりになったり、納まりが複雑になったりします。ですので、2のように間柱を入れるタイミングなどを間違いなく納めてもらえるように表現もします。
そして、このあたりで3のような電気や設備工事の方に対する施工マニュアルも入れています。職人さんは役割によって出番が異なるため、それぞれの方に向けた施工マニュアルも必要です。特に電気や設備系に関しては、断熱壁体に関係してくるため、納め方は明確に指示し、全員で確認する必要があります。

ひだまり:煮たり焼いたりしたものをもとに戻すのは、料理でも難しいですよね。手順を明確にして、それに沿って進めてもらうことの大切さがわかります。
古川:さて、最後に壁の施工マニュアルです。基礎や屋根と同様に断熱方法によって納め方が変わってくるので、ここも細かく表現が必要です。特に〈第10話〉で学んだ断熱壁体の構成や通気層についてよく表現しておきましょう。断熱材の入れ方、順番ほか、どういう状態になっているのが正しい納まりなのかが理解できるように記載します。
ひだまり:通気は詳細部分になるほど注意が必要でしたよね!入口・経路・出口がわかるように表現したいです。

古川:付加断熱にする場合、下の口にも記載があるように断熱施工は付加断熱から先に施工することがセオリーです。付加断熱施工の注意ポイントのひとつに、壁を貫通するビス(金属)が下地を外すことによる熱橋があります。充填断熱を先に施工すると、その熱橋に気づくことができず、そこから結露が起こる可能性があります。それを防ぐために、付加断熱の通気縁のビス止めまでを充填断熱よりも先に行い、室内側から下地を外したビスの貫通がないかを確認し、下地を外しているビスの貫通部があれば適切な処置を行ってから、充填断熱施工を行うことが求められます。このように、施工マニュアルはヒューマンエラーが起こる前提で検討し、施工後の確認まで記載しておくと良いでしょう。

古川:先ほども「確認」という作業が出てきましたが、特に気密の補修は仕上げを行ったあとではなかなかできません。そのためにも中間時の気密測定や断熱の目視検査、熱カメラ撮影、通気の確認が必要です。料理で言うと味見の段階ですね。換気の種類により求める気密数値は変わりますが、第三種換気で0.7cm/㎡・第一種熱交換換気で0.3cm/㎡が気密数値の目安となりますよ。

古川:大まかな流れで施工マニュアル(レシピ)を解説させてもらいましたが部分的な段階は、工程の数だけあります。今回は基本レシピということで概要を理解していただき、この先は皆さんが自社に合ったきほんレシピを作ってもらえたら、より良い住宅が増えると思います。
伝えきれなかったことも多くありますが、これで基本レシピ完了です。ありがとうございました。
ひだまり:古川さん、ご解説本当にありがとうございました。ついにレシピが完成しましたね!はじめは、料理のレシピに例えるってどういうこと?!と思っていましたが、構成が似ていてとても分かりやすかったです。初めは右も左も分からずに勉強を始めましたが、講義を重ねるごとにわかることが増えて、成長を実感できました。ちょっと感動です……。
読者の皆さまも、お疲れ様でした!
- エピローグ(おわりに) -
ひだまり:古川さん、11回にわたる連載を本当にありがとうございました!
裏話にはなりますが、連載は「より良い家づくりを考える方々へ、断熱や結露に関する学びを共有し、その学びの輪を広げること」を目的に始まりました。私は部材メーカーという立ち位置の人間ですが、連載を通して学んだ「家づくりは誰のために、どんな家を作るべきか」という本質はこの先も心に留めておきたいと思います。
そして、高気密高断熱住宅を建てられる皆さまに向け、通気・換気・雨仕舞に関する部材で当社がお力になれることも多くあると強く感じました。それらの観点で何かお困りごとがあった際に、城東テクノをふと思い出し、頼りにしていただけるよう、これからも精進したく思います!
古川:ぜひ、お客様の声を大切に、より良い家づくりに繋がる製品を作っていってくださいね。
今回連載でお話してきたように、自社の家づくりレシピを持つことによって、現場監督ごとに納めかたが変わってしまったり、施工品質がバラついてしまったりするのが解消されます。また、レシピがあると自社建物の施工順番・用意する部材・道具などが把握でき新入社員の方の教育にも繋がったり、新規で参加される施工者の方にも役立てることができたりもしますよ。
これを機に、このようなレシピを皆さんが作れることを願っています。



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