第1話-第2話

〈 第1話 〉

断熱とは“楽で快適で幸せな住まいづくり”の手段のひとつ

ひだまり:最近省エネ法改正や2025年4月からの断熱等級4の義務化、2030年には断熱等級5の義務化(予定)など、断熱に関する話をよく聞きます。この流れから住宅の断熱性能強化を考えられている方も多いかと思いますが、性能の良い断熱材を使って気密性も高めれば、”高気密高断熱の家づくり”ができるのでしょうか?

古川:高気密高断熱住宅の文字をそのままとれば、そう思いますよね。“高気密高断熱”を考える前に、家づくりの本質を確認しておきましょうか。私が考えるに、家づくりの本来の目的は「住まい手にとって、楽で快適で幸せな住まいをつくること」で、「高気密高断熱住宅をつくること」ではありません。断熱や気密は、楽で快適な住まいを実現するための“手段”にあたります。
たとえば、断熱数値だけが良く、日々の生活に合わない家に住むと日常の様々な場面でストレスを感じ「自分の家なのにくつろいだ気がしない。」など家に不満を持ちはじめます。一方で、間取りや収納量、採光、暖かさなど、様々な要素が日々の生活に合っていてストレスのない家で生活すると、住まい手は「いい家買ったなあ。」と家の価値を高く感じてくるのです。このことから、家づくりは断熱や気密だけでなく、住まい手を意識し全体のバランスを考えてつくることが大切だとわかりますね。

ひだまり:本質を見失ったまま進むところでした。これから高気密高断熱住宅のレシピづくりをしていきますが、断熱や気密のことだけ考えるのではなく、住まい手の生活を考えて全体設計をするという本質はしっかり心に留めておきたいと思います!

古川:そうしたら、高気密高断熱住宅のレシピづくりを始めましょう。ひだまりさんは、住まい手のために断熱性能を強化したいと考えたとき、はじめに何を指標にしようと思いますか?

ひだまり:そうですね…、国の指標なら間違いなく性能強化ができそうな気がするので、国土交通省の参考資料にある戸建住宅の断熱仕様例を指標にレシピを作っていこうと思います!

古川:お!確かに国の仕様例なら間違いなさそうですね。ちなみに、ひだまりさんはこちらの仕様例を施工に置き換えて考えたことはありますか?

ひだまり:いえ、そこまでは考えたことはありませんでした!

古川:資料の断熱等級7案の仕様例を見ると、天井はグラスウール105mm厚を2枚重ねで手詰め、外壁はグラスウール105mm+フェノールフォーム100mm、床はフェノールフォーム100mm+フェノールフォーム100mmです。こちらは不可能な納まりではないですが、発泡系断熱を充填すると木材の痩せから断熱欠損に繋がりやすかったりもします。また施工も難しいといえますので、性能を確実に発揮できて、それを維持できる施工計画も必要ですね。
例えば、弊社がかかわった物件で私が施工して難しかった、高性能グラスウール断熱材計360mm厚の屋根充填断熱(熱貫流率0.131W/㎡K)の図面を見てみましょう。120mmの高性能グラスワール断熱材16Kを3段重ねています。図面で見ると麗に納まっていますが、施工となると屋根側から1段目→2段目と詰め、そのあと垂木に3段目用の木下地を留め付け、断熱材カット、3段目の断熱材を詰めていくことになります。

ひだまり:うわぁ…!断熱材を詰めるの大変そうだなあ、とは思っていましたが、想像以上に大変な作業だとわかりました。屋根だけでなく、床、壁も断熱すると思うともっと気が遠くなります…。

古川:そうですよね。そのように大変な中でもミスなく納めるためにおすすめの断熱計画テーマがあります。それは「シンプルイズベスト」です。断熱等級が上がるから施工も難しくなるということではなく、断熱の基本を押さえ、適切な部材を使って、シンプルに納めることこそが、断熱性能を上げつつ施工不備による結露を防ぐ重要なポイントとなると考えています。
仕様例に似た納まりや部材を使い、施工面をあまり考慮せず断熱計画・設計をしてしまうと、工程が増え、工期もかかり、画像のように断熱材の面が揃わず施工精度にも影響することが考えられますからね。先ほどの断熱材3段重ねの物件と同じくらいの性能値が出ながら、施工もしやすい別の納め方も計画できるのですよ。

ひだまり:そうなのですね!確かに料理でも、単純なレシピの方が分かりやすくて失敗が少ないです。となると、仕様例のまま図面に組み込むというよりも、部材の性質や施工工程などもふまえて自社用に納まりを検討し、一番シンプルな方法を検討するのが良さそうですね!

古川:はい。仕様例はあくまで数値で断熱等級に適合させる納まりの一例なので、その納まり以外にも適合する方法はあります。もちろん、指標として一般的な納まりを参考にすることに問題はないですが、ひだまりさんが言っていたように、使用する部材によって質が異なるので、その得意・不得意を理解して組み合わせ効果が発揮できる部材を選定し、その部材に合わせた順番で施工することで結露防止に繋がります。
はじめに聞いてくれた「何を指標にするか」については、国の基準は満たしながらも、型にはまりすぎずに“自社の理想の家づくり”に合った断熱仕様を組み立てて、それを指標としてほしいと思っています。いうなれば、各社が「自社の秘伝のレシビ」を作るという感じでしょうか。

ひだまり:たしかに材料に品種などの細かい指定まである時はそれを使い順番通り作らないと、うまくできないことがあります…。部材選びもこれと同じってことですね。そう思うとレシピって本当によく考えられていますね!
ここまでをまとめると、「住まい手にとって、楽で快適な住まいを作る」ことが家づくり本来の目的で、その目的を果たすために断熱や気密の工程がある。そこで自社の「理想の家づくり」に合った断熱仕様を検討することで、より確実な結露防止に繋げられる、ということですね!
城東テクノも「ユニークな建材で長持ち住まいをささえます」というコーポレートスローガンを掲げているので、安心・安全に暮らせる高気密高断熱住宅づくりの一助となる部材が作れるように基礎からしっかり学んでいきたいと思います!

〈 第2話 〉

“住みよさ”は、バランスカ【①断熱 ②気密③換気④冷暖房】

古川:料理でもそうですが、一つ一つの素材が秀でたとしても美味しいかどうかは別の話ですよね。ここで伝えたいのは、“住みよさ”はバランス力ということです。〈第1話〉で「楽で快適で幸せな住まい」について話しましたよね。この快適さとは「家のバランスの良さ」によって成り立ちます。バランスをとるべき要素は4つあり、器の性能である①断熱②気密と、設備の性能である③換気④冷暖房です。4つと言いながら、ここに通気・防湿・防風/防水という要素も関係してきますが、それは次回話しますね。

ひだまり:わかりました!では、まず4つの性能のバランスについて教えてください!

古川:上の図にもまとめていますので、それを見ながら聞いてくださいね。

①断熱

断熱材の種類や厚さによって熱の移動スピード(熱伝導)は変えることができます。家の内部と外部の境目を隙間なく断熱することによって、外気温に影響されにくくなり、暖房とのバランスで露点温度まで下げない=結露を防ぐことができます。もしも、自分が把握していない箇所で断熱連結できていない部分(断熱弱点)があった場合、暖房ではその弱点を補填できないので、結露するリスクは高まります。つまり、バランスをとるためには断熱連結が重要になるってことですね。

②気密

気密性能が低い住宅はいたるところに隙間が点在し、隙間を特定して塞ぐことも難しいです。
あらゆる隙間から常に熱移動が行われてしまうと、熱のコントロールが難しくなりますから、できるだけ内外を貫通する隙間を減らすこと(気密化)が、結露を防ぐことに繋がります。もちろん、気密性能が低いと、計画された換気経路に隙間からの漏気が加わって換気量や換気経路にも影響してきますね。

③換気

換気をしすぎると暑かったり寒かったりしますが、換気をしないと呼吸・汗・炊事・洗濯など生活の中で出た水蒸気が室内に滞って、空気が悪くなっていきますよね。人の健康のためには新鮮な空気を入れ、建物の健康のために余分な水蒸気を外部へ排出し、室内の過度な加湿状態を避けて諸点温度に到達しにくくすることが大切です。

④冷暖房

断熱・気密・換気の3つの性能だけでは、熱をコントロールできません。家の断熱性能でどのくらいの熱が逃げるのか?外気温からどのくらい冷暖房を配置しなければいけないのか?など、住宅の間取りや熱損失からの冷房負荷を含めた冷暖房容量や配置計画をしてはじめて、建物の熱のコントールと結露防止が可能となります。

ひだまり:おぉ~、すべてが繋がっているのですね。

古川:そうなのです。下の画像のような細かいところからもバランスが崩れていくので、納め方・住まい方の両方に注意しながら家づくりを考えていきたいですね。

ひだまり:これからここに通気や防湿、防風防水の要素も加わるのですよね?!そうなったら、もっと複雑になって頭がパンクしそうです。これから誰にでも理解してもらえるレシピをつくれるか心配になってきました…。

古川:大丈夫ですよ。確かにはじめは大変かもしれませんが、それぞれの役割が発揮できる「シンプル」で「確実」に納められるレシピを作る方法も後ほど伝えます。

ひだまり:安心しました!また解説をお願いいたします。

古川:そして、お気づきかもしれませんが〈第2話〉では熱のコントロールや露点温度という言葉が何度も出てきましたよね。そこで次は、熱や湿気の基本を学んでいきたいと思います。

ひだまり:はい!…ってもしかしてあの子達は!次回はとても賑やかになりそうです。

※こちらの内容は2025/01/17に配信したメルマガを元に作成しております。
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