第3話
〈 第3話 〉
熱と湿気を知る

ひだまり:古川さん、解説をいただく前にネッキーとシッケーをご紹介します!城東テクノの特設サイト「こやうらのうら話」というところで、小屋裏に住みつく悪党として登場している子たちです。前回「熱と湿気」という単語を聞いて、ここまで来てしまったみたいで。今までは敵対関係にあったのですが、今日のレクチャーで「熱と湿気」を正しく理解して、彼らとわかりあえたらいいなあと思います!
古川:高気密高断熱や結露防止を語るうえで「熱と湿気」の話は欠かせませんし、ネッキーとシッケーとはうまく付き合っていく必要がありますから、今日が仲直りの良い機会になると思いますよ。
- 第1章 熱を知る -
古川:それではまず、「熱」と「湿気」の基本概念から入りましょう。まずは「熱」について説明します。ここでは①熱の動き ②熱橋 ③外皮平均熱貫流率の3つをピックアップしようと思います。ココからは少し難しくなりますので、絵を見ながら実生活に置き換えてゆっくり理解してくださいね。
ひだまり:はい!少しずつ理解を進めていきたいと思います!
古川:まず、①熱の動きには、伝導/対流/輻射(放射)の3種類があります。伝導熱はモノを伝って感じる熱、対流熱は空気で伝わる熱、輻射熱は赤外線で伝わる熱です。

古川:特に覚えておいてほしいことの1つ目は「エネルギーは高い方から低い方へと流れる」という定義です。例えば、冬に大きな窓を背にして座ったときに体が冷えるのは、自分の体温の方が高くその熱が窓に流れているというイメージです。この場合、窓を断熱性能の高い窓に変えると、体温と窓とのエネルギー差が縮まり、寒さも感じにくくなります。

古川:ひだまりさん、今までは寒さが体に当たるから寒いと感じていましたよね?私も学ぶ前は、そう思っていました。室内の空気温度だけではなく周壁温度も上げて自分の熱が急激に流れにくい状態にすると寒さは和らぎます。つまり、周壁温度を上げるためにも断熱は大切になります。
ひだまり:ずっと窓からの寒い空気が自分に向かってきていると思っていましたが、違ったのですね!
古川:では、さらに難しくなりますよ。特に覚えておいてほしいことの2つ目は「空気を温めると膨張し、上昇する」という定義です。「温度が上昇すると空気が膨張する。この時、空気分子の重量は変わらないので比重が軽くなる。(ボイル・シャルルの法則)」という理論から来ています。建物下部から入ってきた冷気が部屋で温められて天井や小屋裏へ上昇していく、このことから熱を逃がさないために建物上部の断熱性能と気密性能は高めておく必要があるとわかりますね。ココまでは大丈夫ですか?
ひだまり:大丈夫です!こういった定義は色々な場所で関連してきそうなので、よく覚えておきたいと思います。

古川:次の②熱橋も「熱を逃がさない」という観点で対策が重要です。熱橋とは熱移動がしやすい部位で熱伝導率の高い部分、つまり外気温など影響を受けやすく結露しやすい部分なので、適切な断熱措置が必要です。熱橋というと隙間や断熱欠損部、金物部分を思い浮かべる方も多いかと思いますが、木材も熱伝導率が高いため熱橋といえて、それを木熱橋(もくねっきょう)と呼びます。下の写真、家の隅角部の温度が低く木熱橋となり、露点温度に達しやすく結露を助長させる原因となっていることがわかります。画像の解説にもあるように、木熱橋だけが原因ではなく、水蒸気の多くなるような住まい方をすると弱点となる場合があるということです。木熱橋の対策には断熱材※を使った外張り断熱や付加断熱で柱を含む木部をすべて覆うなど、木部を外気温から保護するとよいでしょうね。
※断熱材:23°Cにおける熱伝導率が0.065W/㎡K以下のもの。(JIS A 0202)

ひだまり:木熱橋って初めて聞きました!木材は温かみがある印象でしたが、断熱材と比べたら熱伝導率が高く、熱橋になりうるとはびっくりです!
最後に③外皮平均熱貫流率(Ua値)についてですね。最近はお施主さんもよく気にされていると聞く値です。Ua値が良い家は性能も高く住み心地が良さそうですよね!
古川:そうですね。ただ、外皮平均熱貫流率は1mあたりの熱貫流率に平均換算しているので、部位的に断熱性能が弱い可能性があることを理解しておく必要があります。建物の断熱強弱のバランスや断熱性能の低い部分に関しては、冷暖房の配置バランスが取れた計画も必要です。
ひだまり:数値が良ければ性能も良く、家のどこにいても快適という印象でしたが、「平均値」であると考えたら、場所ごとであまりに断熱の強弱がある値でとった平均と、どこも均等な値でとった平均では過ごす場所での体感に違いが出そうですね。
古川:その通りです、理解が早いですね。例えば、特に床は常に身体が接する外皮なので寒さを感じやすく、断熱性能が平均して優れていても、床断熱の一部分が断熱欠損を起こしていると不快に感じます。人の「体感」はすごく繊細で感度が良いので、〈第1話〉で話したように、数値にとらわれすぎず全体を見て快適に過ごせる断熱計画をしたいですね。
- 第2章 湿気を知る -
古川:これまでは「熱」の話でしたので日常生活から感じやすい点もあったかもしれませんが、以降の「湿気」の話は普段の生活でそれほど関心のない話だと思うので、更に理解が難しくなると思います。ここでは①空気温度と水蒸気の関係と②湿気の動きについて話します。
ひだまり:うう…、シッケーとわかりあうためにも頑張ります!
古川:まずは、①空気温度と水蒸気の関係 からです。空気は温度によって含められる水分量が決まっていて、その限度量を飽和水蒸気量といい、その飽和水蒸気量に達する時の空気の温度を露点といいます。下図のように、空気温度が高いほど露点温度も高く、含められる水蒸気量も多くなります。反対に空気温度が低いほど露点温度も低く、含められる水蒸気量も少ないのです。このように、実はネッキーとシッケーは密接な関係にあるのです。

ひだまり:空気温度と水蒸気にはそのような関係があったのですね…。そして次は②湿気の動きですね。熱は温まるとどんどん上昇するという話でしたが、湿気はどうなのでしょうか?
古川:湿気の動きには物質を伝う「移流」と空気中を移動する「拡散」があります。さらに、水分子は空気分子よりも軽いので、湿気の多い空気は乾燥した空気よりも軽く、上に溜まります。これを熱の話であったボイル・シャルルの法則と飽和水蒸気量の話と組み合わせると、建物上部には温度の高い空気が溜まる+温度の高い空気は水蒸気を多く含むことができる=小屋裏をはじめ建物上部は高湿になりやすいとわかりますね。夏場、屋根で高温になり水蒸気を多く含んだ空気が夜に急激に冷やされて結露するなんてことも考えられます。熱に加えて湿度の動きも知ると、建物全体の断熱や気密の重要性に加え、熱や湿気が溜まりすぎないようにそれを排出する仕組み(通気)も同時に検討が必要とわかってきます。
ひだまり:おお!ネッキーとシッケーが仲良く“小屋裏”に住み着いている理由がようやくわかりました!これまでは、乾いた空気は軽そうで、湿った空気は重そうなイメージでしたが、湿った空気の方が軽く、上昇していくのも驚きでした。断熱と気密に加えて、適度な通気もしっかり検討していきます!

古川:熱と湿気とうまく付き合っていくための「通気」でも注意ポイントがあります。ひだまりさんは、タンスの裏側がカビているのって見たことがありますか?実は水蒸気の粒子はとても小さくて、タンス裏などのどのような隙間にも入っていきます。一方で、熱は狭い場所に入ることができません。熱対流によって空気を動かすことで、湿気の排出ができ露点温度への到達を防ぐことができるのですが、タンスのような隙間では熱対流を起こせず空気が滞留してしまい、露点温度をむかえて結露やカビが発生してしまうのです。なので結露を起こさないためには、十分な通気空間をとり熱対流を起こせる環境にして、熱の出入口も作り空気が循環する仕組み=通気経路を連続してつくるということが重要です。

ひだまり:断熱や気密強化と同時に、熱対流を起こすための空間と熱の出入口を設けて空気循環を生み、適度に熱や湿気を逃がすことで、結露やカビを防げるのですね!これからはネッキーとシッケーが小屋裏に居座らず、適度に外にお出かけしてくれるようお散歩ルート(通気経路)でも作っておこうと思います!いつもは小屋裏に隠れているのに、今日は目立ちたがり屋さんの二人でした!これからは良い関係で共生していきます。
古川:段々レシピづくりの基礎ができてきましたし、ネッキーとシッケーともわかりあえそうで良かった!では熱と湿気の基本を頭において、最後に肝心の「結露の基本」を学びましょうか!


※こちらの内容は2025/01/24に配信したメルマガを元に作成しております。
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